2013.05.24 10:27

「サカエ金属工業」森幸子社長に聞く

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記者:別宮薫

電極ホルダーなどの銅鋳物や銅ハンマーなどの鋳造を手がけるサカエ金属工業(大阪市西成区)は、原材料の仕入れから製品の鋳造までを自社で行い、高品質の製品づくりにこだわっている。3代目社長の森幸子氏に代表取締役就任の経緯や自社製品について聞いた。

社長自ら積極営業 新規顧客を開拓

――代表取締役に就任した経緯から

 「創業者の義父の跡を夫が継ぎ、私は事務を担当していた。しかし、2004年3月に夫が倒れた。今も意識は戻っていない。夫なしで会社を続けていくことは難しいと思い、他社に設備や従業員を丸ごと引き取ってもらうことにした。しかし、製造手法の違いなどから断念。従業員の生活がこの会社にかかっていることへの責任と、私を『さっちゃん』と呼んでかわいがってくれた義父の鋳造へのこだわりを引き継ぎたいという思いから、『やれるところまでやってみよう』と決意した」

 ――技術面での苦労は

 「社長就任当初は不良品の連続だった。銅の鋳造でポイントになるのは、銅を酸化させないことだ。酸化は製品のひび割れの原因になってしまう。自社には創業時から受け継いだひび割れを防ぐ独自の手法があり、中には夫しか知らない鋳造のノウハウもあった。うまくいかない部分は定年退職した人に手伝いを頼んだり、外部の講師を呼んだりして、試行錯誤を重ねた。満足のいく製品ができるようになるまで1年かかった。最近では、夫の代には(契約が)なかった大手電力会社や鉄道会社で、わが社の製品が使われている」

 「大手企業は品質にも納期にも厳しいが、電車に乗りながら『この部品にうちの製品が使われているのかも』と考えると誇らしい気持ちになる。小さな会社でもいい品質の製品を作り続ければ『生き残っていける』と実感している」

 ――社長就任後、力を入れたことは

 「営業を積極的に行った。就任して1年たった頃から約半年間、経営の勉強のために大阪の中小企業を支援する大阪産業創造館(大阪市中央区)で開かれていた経営者のためのワークショップに通った。ワークショップでは、講師をしていた経営コンサルタントの桂幹人さんに『製造業は発注を待っているだけではいけない。社長自ら営業に行き、注文を即決でとらなければいけない』と教わった。その教えを受け、インターネットで銅鋳物を扱う企業を調べ、ダイレクトメールを送るなど地道に営業を行い、大手企業にも臆せずに訪問した」

 ――しばらく経営は順調だったが、08年にリーマン・ショックの影響を受けた

 「赤字が半年ほど続き、これ以上続いたら会社を閉めようと決意した。しかし、それまでに行っていた営業で取引先が増えたので、立ち直ることができた。『まいた種が芽を出した』と感じた」

 ――自社製品の銅ハンマーのリサイクルも行っている

 「銅は軟らかい金属のため、たたく対象を傷つけることはない代わりに、ハンマーが変形する。初めは横から見るとT字型のハンマーが、使うにつれ、T字の横棒が両端から少しずつ減っていく。使えなくなったハンマーを送ってもらい、工場でハンマーの頭を溶かして新しい銅と混ぜる。新品を作るよりも安く済むことから、取引先からも喜ばれている」

 ――会社の将来について

 「昨年、長男がアパレル関係の仕事から転職してくれた。親子で仕事をするのは難しく、大げんかも2度したが、後継者ができてやはりうれしい。従業員も後継者がいれば、長く安心して働ける。最近ではローンで家を買った従業員もいる。そんな姿を見ていると、うちの会社で頑張ろうと思ってくれているのかな、と感じる。将来は、現在扱っている銅や特殊金属にこだわらず、鋳造を幅広くできるようにしたい。従業員と力を合わせて、『サカエ金属工業』に頼めば間違いないと信頼されるような会社になりたい」

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記者プロフィール

別宮薫

別宮薫

役職 : -
在学中 : 大阪大学人間科学部(3回生)
出身地 : -
誕生日 : 1992年10月12日
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